今回は相続手続きについてです。
相続が開始したとき、遺言書があるケースはよくあります。
遺言書は亡くなられた方の最後のメッセージであり、このように財産を分けて欲しいという意思です。
しかし、内容は見てみたら「これはちょっと…」と思うような内容である可能性は当然にあります。(そうならないためにも遺言書を書くときには専門家である司法書士に相談して欲しいのです。)
そんなときでも、この遺言書の内容は絶対で遺言書通りに相続手続きをしなくてはいけないのでしょうか。
それとも遺言書の内容とは違う遺産分割をすることはできるのでしょうか。
というのが今回のテーマです。
結論から言いますと遺産分割をすることは可能とされています。
しかし、条件があります。
①遺言書が遺産分割をしてはいけない内容ではないこと。
②相続人全員が遺言書の内容を理解した上で、新たに遺産分割をして相続手続きをおこなうことに同意すること。
③第三者に遺贈する内容ではないこと、あるいは第三者の同意があること。
④遺言執行者が指定されていないこと、あるいは遺言執行者の同意があること。
では、ひとつひとつ解説していきますね。
①遺言書が遺産分割をしてはいけない内容ではないこと。
これはずばり民法第907条に書いてあります。
「共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。」
亡くなった人の意思が「どうしても私の決めたように分けて欲しい。遺産分割は禁止します。」という内容であれば遺産分割はできません。
ここまで強い意思なら仕方ないですね。
②相続人全員が遺言書の内容を理解した上で、新たに遺産分割をして相続手続きをおこなうことに同意すること。
遺産分割はそもそも相続人全員の同意でおこなわなくてはなりません。
さらにこのケースでは遺言書が存在しているので、その遺言書の内容も全員が把握した上での同意が必要です。
例えば、A、B、Cの三人の子供が相続人の場合で、遺言書の内容が「Aに不動産を相続させる」という内容だったとします。
相続財産は不動産がほぼ全てです。
面白くないBとCは、Aに内容を伝えずに「遺言書があるみたいだけど、ABCで話し合って決めよう。3人兄弟で仲良くやろう。」
と言って、Aが応じてしまった場合などです。
Aは、内容を把握していなかったということを証明できれば、遺産分割は無効になる可能性が高いと考えます。
③第三者に遺贈する内容ではないこと、あるいは第三者の同意があること。
遺言書の内容が、相続人ではないXに遺贈するという内容の場合です。
この場合では、さすがにXの同意がなく、相続人だけの同意で遺言書と違う遺産分割ができる感じはしないですよね。
「Xに不動産を遺贈する」という内容であれば、亡くなったと同時にXの所有ということになります。(大判大正5年11月8日)
しかし、民法第986条で「受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄をすることができる。」とあるので、Xの同意があれば遺産分割は可能となるのです。
ここで注意が必要なのは包括遺贈の場合です。
包括遺贈とは、例えば「Xに全財産を遺贈する」または「Xに全財産の2分の1を遺贈する」というように、全部または割合で遺贈するものです。
この場合は、民法第990条で「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」とあるので、Xが財産を取得しないようにするには、相続人と同じように家庭裁判所に相続放棄の申立をする必要がでてきます。
④遺言執行者が指定されていないこと、あるいは遺言執行者の同意があること。
遺言執行者とは、遺言書の内容を実現する手続きをする人のことです。
つまり、遺言書の内容と異なる遺産分割をするのだから、当然に遺言執行者の同意が必要ということです。
相続人の一人は遺言執行者になっている場合には、当然に相続人としても同意する訳ですからよいのですが、第三者が遺言執行者となっている場合には簡単ではないかもしれません。
いかがでしたか。
色々と書きましたが、多くの遺言書は亡くなられた方が残された方にとって一番良い方法を考えて作られたものです。
その内容を尊重することも大事ですし、残された相続人にとって一番良い方法が他にもあるのであれば、相続人全員で遺産分割をする方法を取ることも良いかと思います。
亡くなられた方は相続人のこと一番に考えていたはずですから。
江戸川区で遺言・相続手続き、相続放棄は司法書士福地事務所 代表 福地良章