相続法が昭和55年以来、約40年ぶりに大きく改正されました。昭和55年の頃と比べますと、現在は、平均寿命も7,8歳延びています。社会を取り巻く環境も随分と変わりました。つまり高齢者社会に対応できるように相続法を実際の社会に合わせる目的の改正です。
今回、大きく変わったポイントは7つです。その7つのポイントを簡単にまとめてその影響についてもお知らせします。
このページの目次
①配偶者居住権の新設(施行日2020年4月1日)
配偶者居住権とは、亡くなられた方の配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の建物に相続開始後も無償で居住し続けられる権利のことです。
配偶者居住権には、「配偶者長期居住権」と「配偶者短期居住権」の2つがあります。細かい違いは、別のページに記載しますが、どちらも高齢者社会の影響から亡くなられた方の配偶者の生活を守るために作られた制度です。残された配偶者の生活の安定つながることがポイントです。
②遺産分割の取り扱い
遺産分割協議についても改正されたポイントはいくつかあります。ここではその中でも影響の大きいポイントの概要だけ記します。
・特別受益の持ち戻し免除の意思表示の推定(施行日2019年7月1日)
婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の遺贈または贈与があった場合は特別受益の持ち戻しを不要にするという規定です。わかりづらいので細かいことは抜きにして簡単にいうと、「長年連れ添った夫婦の間で住んでいる家の名義をあげても、他の相続人から文句を言わせなくした」という意味です。これも①の配偶者居住権と同じく残された配偶者の生活の安定つながることがポイントです。細かいことは別のページに記載します。
・預貯金の仮払い制度の新設(施行日2019年7月1日)
相続法の改正前は、相続が開始すると、亡くなられた方の銀行口座がいわゆる凍結してお金を下ろせなくなってしまい困ってしまうことがよくありました。しかし実際には、亡くなられる前にそれなりの金額を下ろしてしまうとか、亡くなられた後でもキャッシュカードで下ろしてしまうということがおこなわれていました。これは法律上も問題がありますし、なによりも相続人同士でのトラブルの原因であったため、相続法の改正により一定の手続きを踏むことによって、一定の金額を相続人が下せるようにしました。相続法が実体に合わせて改正したことがポイントです。
③自筆証書遺言の方式について(施行日2019年1月13日)
自筆証書遺言は改正前は全ての文章を文字通り自分で書かなくてはいけませんでした。しかし、改正後は、財産目録はパソコンで打ち出したものを使ってもよくなりました。これによって高齢者が自筆証書遺言を作成しやくすなったことがポイントです。
④遺留分と遺留分減殺について(施行日2019年7月1日)
遺留分制度は家督相続があった明治民法の流れを引き継いだものでした。不動産を含む全ての相続財産を遺留分の割合で共有することになっていたので、家督相続が廃止された現代でも、遺言書によって相続分が少ないとされた相続人が、最終的にどの相続財産を取得するかで揉め事が絶えませんでした。改正のポイントとしましては、遺留分を持つ相続人は、不動産などの物ではなく、遺留分の侵害相当額を金銭で請求することになったことです。
⑤相続人以外の者の貢献について(施行日2019年7月1日)
特別の寄与制度というものが新設されました。相続法の改正前から亡くなられた方の療養看護に努めることによって、亡くなられた方の財産の維持、または増加に貢献した場合には相続人は相続分とは別に財産(寄与分)を請求することができました。しかし、改正後は相続人ではなくても親族であれば特別寄与料を請求することが可能になりました。つまり、亡くなられた方の長男の奥さまなど、直接の相続人以外でも相続財産の分配を受けることができるようになったことがポイントです。
⑥遺言の保管について(施行日2020年7月10日)
自筆証書遺言書は、作ったはよいけれども、その後なくしたり、災害によって消失したり、場合によっては盗まれたり、内容を書き換えられたりするリスクがありました。そこで今回の相続法の改正により法務局で自筆証書遺言書をを保管することができるようになりました。自筆証書遺言書が従前よりも使いやすくなることがポイントです。
⑦遺言執行前に遺産を処分された場合について(施行日2019年7月1日)
相続法の改正前は遺言書で相続人に相続させると書いてあれば、亡くなられた方の最終意思なので、第三者に対しても主張することができました。しかし、改正後は、善意(事情を知らない)の第三者に対しては、例え遺言書があったとしても、法定相続分を超える部分に関しては無効を主張できなくなりました。これによって、遺言書があったとしても相続登記は早くおこなわなくてはいけなくなったことがポイントです。