先日の相続相談で、こんなことを聞かれました。
「子どもがいなく、両親も既に亡くなっている兄Aさんの相続で、Aさんの奥さんが遺言書の検認申立をしました。
弟であるCさんには家庭裁判所から通知がきたんだけど、同じ兄弟である私Bには家庭裁判所から通知がないのだけれど、そんなことってありますか?」
ちょっとわかりづらいんで整理します。
・お子さん、ご両親のいない人が亡くなった場合の法定相続人は、「配偶者」と「兄弟姉妹」です(第三順位の相続)。
・この場合の法定相続人は、「亡Aさんの奥さん」「亡Aさんの兄弟Bさん」「亡Aさんの兄弟Cさん」
・検認の申立をした場合には、法定相続人全員に家庭裁判所から通知が届きます。
でも、おかしいです。
通知が届いたのは、「亡Aさんの奥さん」と「亡Aさんの兄弟Cさん」だけです。
どうしてBさんには通知がなかったのでしょうか。
私は最初、家庭裁判所のミスあるいは郵便事故なのかなとも思いましたが、よくよく話を伺うと、亡Aさんには跡取りがいなかったから、Cさんを養子にしていたそうなのです。
そう、このケースの法定相続人は、「亡Aさんの奥さん」と「亡Aさんの養子Cさん」だけだったのです(第一順位の相続)。
いわゆる普通の、夫が亡くなって、奥さんと子どもが相続するのと同じケースです。
つまり、Bさんは法定相続人ではなかったので、家庭裁判所から通知がなかったという訳だったのです。
ここでもう一つの疑問が「兄弟同士で養子縁組って出来るの?」です。(ようやくタイトル笑)
今回のケースでは兄が弟を養子に迎えるって話ですが、結論としては、養子縁組をすることが出来ます。
民法では、養子縁組の条件が書いてあって、それに反しなければ養子縁組が出来るのです。
では、ザックリと、でもちょっと具体的に見てみましょう。
①民法792条「成年に達した者は、養子をすることができる。」
Aさんが20歳になっていれば条件クリアです。
ちなみに、2022年4月1日に成人年齢を18歳に引き下げる民法改正が施行されます。
じゃあ、2022年4月1日以降は18歳でいいのかというと、実は養親になる資格は20歳のままなんです。
更に余談ですが、絶対に18歳では養親になれないかというとそんなこともありません。
18歳でも結婚をしていれば「成年擬制」というものが働いて、成年に達したとみなされるので養親になることが出来ます(民法753条)。
②民法793条「尊属又は年長者は、これを養子とすることができない。」
つまり、兄が弟を養子に迎えることはOK、弟が兄を養子に迎えることはNGという意味です。
③民法794条「後見人が被後見人を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。以下略」
ちょっとレアケースなので説明は割愛しますが、成年後見制度を利用している場合には簡単には養子縁組出来ないということです。
④民法795条「配偶者のある者が未成年者を養子とするには、配偶者とともにしなければならない。以下略」
結婚しているなら、未成年者を養子に迎えるのに片方だけじゃダメですよってことです。
これは、養子に迎える未成年者の子の幸せを考えて作られている条文だと思います。
養両親に望まれて養子縁組をして欲しいですからね。
⑤民法796条「配偶者のある者が縁組をするには、その配偶者の同意を得なければならない。以下略」
これは④民法795条とどこが違うかというと、未成年に限定していないというとこです。
夫(または妻)が勝手に養子縁組をしたら、相続関係が変わってしまって妻(または夫)の迷惑になる可能性がありますよね。
⑥民法797条1項「養子となる者が十五歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、縁組の承諾をすることができる。」
15歳未満の子は親権者が代わって承諾をすることになります。
「僕は、〇〇君の家の子になるんだ!」と勝手に言っても15歳未満では縁組出来ないということです。
⑦民法798条「未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は、この限りでない。」
これも④民法794条と似た趣旨です。
未成年の子が幸せになれるか家庭裁判所がある程度判断しますということです。
ただし書きは、例えばお孫さんを養子に迎えるとか、再婚相手の連れ子を養子に迎えるようなケースです。
そういった場合なら、幸せになる可能性の方が高いので家庭裁判所の許可までは求めないということなのだと思います。
⑧民法799条「第738条及び第739条の規定は、縁組について準用する。」
こういう第〇〇条の規定を準用するって条文が法律を読みづらくさせてますよね。(かといって全部書いていたら六法が今の倍くらい分厚くなっちゃいますが…)
これは何を準用しているかというと婚姻の規定です。
主に届出をする必要があるってことが重要です。
以上、兄が弟を養子に迎えてはいけないという内容の条文はなかったので、出来るという結論になるのです。
どうでしたか。
思ったよりも長い文章になってしまい読みづらかったのではと思います。
法律問題は条文に当てはめることが基本なので、本来、このように条文に当たって判断することが原則なのです。
ちょっとでもその雰囲気を感じて貰えたのなら幸いです。
江戸川区で遺言・相続手続き、相続放棄は司法書士福地事務所 代表 福地良章